村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド上」

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

 物語が進むにつれ、<僕>の「世界の終わり」と<私>の「ハードボイルド・ワンダーランド」が絶妙に接近してくる。序盤はそれぞれの世界に対して丁寧な説明も無く、突き放したような印象。壁に囲まれた世界の終わり、影を引き剥がされた夢読みの<僕>、影が死んで心を無くしてしまった図書館の女の子など、独特の世界観が織りなされている。

「人は影なしでは生きていけないし、影は人なしでは存在しないものだよ」

「他人から教えられたことはそこで終わってしまうが、自分の手で学びとったものは君の身につく」

自分が重要な存在であるというのは、どうも奇妙なものだった。うまくなじめない。

「人々が心を失うのはその影が死んでしまったからじゃないかってね。違いますか?」

「心というのはそういうものなんだ。心がなければどこにも辿りつけない」