村上春樹「スプートニクの恋人」

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 初期3部作なんかと比べるとよくもわるくも「普通」な印象。「ノルウェイの森」に近いのかな。ラブストーリーのような、ミステリーのような、読みやすい物語。相変わらずその独特の比喩表現に惹かれる。

ミュウは暇つぶしに読むごく軽いものをべつにすれば、小説をほとんど手にとらない。これは作り事なんだという意識がどうしても頭からはなれなくて、登場人物に感情移入することができないのね、と彼女は言った。

「よかったら教えてほしいんだけど、あなたにはどんな現実的能力があるのかしら。つまり、どんなことを得意としているのかしら。たくさん小説を読んで、たくさん音楽を聴く以外に?」

ぼくが世界に対する留保のない情熱を見いだすのは、本や音楽の中に限られていた。そして当たり前のことかもしれないが、ぼくはどちらかといえば孤独な人間になっていた。

悪魔の汗みたいに濃いエスプレッソ・コーヒー

ぼくには―――ぼくしかいない。いつもと同じように。

この惑星は人々の寂寥を滋養として回転をつづけているのか。

長いあいだ一人でものを考えていると、結局のところ一人ぶんの考え方しかできなくなるんだということが、ぼくにもわかってきた。