トーベ=ヤンソン「ムーミン谷の十一月」鈴木徹郎・訳

 ムーミン谷の十一月 (講談社文庫)
 ムーミンシリーズであるのにムーミン一家が全く出てこないという異作。偏屈者のスナフキン、神経質なフィリフヨンカ、自分を変えたいヘムレン、空想癖のあるホムサ、自由奔放なミムラ、すべてを忘れてしまったスクルッタがムーミン谷で奇妙な共同生活をおくる。これだけ登場人物が好き勝手やっていて、正義や友情といったテーマも出てこないで、どちらかといえばそれなりに暗いはずなのに、何故かまとまりがある。しかし決して仲良しになるという展開ではない。テーマは「共存」なのかも。まったくキレイごとが出てこないあたり、ファンタジーなのに妙に人間らしい生活感がある。

(あんまり大きくなりすぎて、ひとりでうまくやっていくことができないんだ。)