村上春樹「回転木馬のデッド・ヒート」

回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)
 これ読んで思ったんだけど、村上春樹の書く小説ってやっぱりファンタジーなんじゃないか。具体的な細かい事例を捨象して、無機質な本質を抽出することにより得られる非現実感。例えば「セブンイレブンガリガリ君を買って帰った」という出来事なら「コンビニエンス・ストアでアイス・キャンディーを買って帰った」というような書き方がされるのだろう。
 収録された8つの物語は確かにどれも実話に基づいて作られたものかもしれないけれど、全くといっていいほどリアリティが無いのは村上春樹特有の文体によるものなのだろう。「嘔吐1979」とかには背筋がスッと寒くなるような怖さがある。

自己表現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。

正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折りかえし点を曲がろうと決心した、ということになるだろう。