穂村弘「もしもし、運命の人ですか。」

 恋愛についてかくも真面目にかつ非現実的に考察している人ってのもなかなかいないと思う。いや、しかし面白いですこれ。
 作者の感受性がみずみずしすぎて素で少女漫画でも描けるんじゃないかっていうほど。自己愛に対する考察の部分は目から鱗だった。ロマンチストってすごい。

「うまく云えないんだけど、たぶん初めてのことをふたりで分け合いたかったんだと思う。たとえ、それが一緒に罠に掛かることでも」

職業選択の自由自己実現へのプレッシャーを逆に高めたように、恋愛の自由が関係性の実現と継続への道を狭めたところがあると思うのだ。

このひとは花火をみたらただそれに向かって歩けばいいと思ってるんだな、と思う。素敵だ。

誰かを好きになることの出発点に自分自身への好意的評価が存在するという例は、一般的な恋愛の場合にも珍しくないように思う。

一班に無償の愛とみなされがちな母子愛が「自己の分身を無条件に愛する」という意味での自己愛の究極形だとしたらどうか。